足元にご注意ください

気付けばハマる、そこは沼。劇団☆新感線を中心にお芝居について好き勝手書き連ねる場所。

ハンマーで頭を割られたスリルミー2023尾上廣瀬ペア

ハ゛ン゛マ゛ァ゛であ゛た゛ま゛を゛わ゛る゛ぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!

またやべえペアが生み出されてしまったスリルミー2023……9月7日公演初日、尾上廣瀬ペアの感想殴り書きです。なんでこんな…知らない話になるんですか?

尾上廣瀬ペアの個人的印象は「放っといたら壊れてバラバラに飛び散りそうだった廣瀬彼をテープでぐるぐる巻きに修理して鳥籠の中にそっと仕舞い込んだ松也私の一方通行純愛ホラー」です。

なお、「尾上廣瀬ペア」だけど「廣瀬彼と松也私」で行きます。「尾上私」はちょっとなんとなく違和感があってテンポ良く書けなかったので。ちなみに「尾廣ペア」も違和感あるから略すなら「松廣ペア」かなあ……(どうでもいい)



すでに壊れている廣瀬彼

廣瀬彼、序盤から病みすぎていやしませんか…………

過信とか盲信とかニーチェを拠り所にとかそういうレベルじゃなくて、既に完全に壊れてしまっている彼。

とにかく前半の廣瀬彼の感情が無風すぎるんですよ。あまりにも「「「無」」」なの。無っていうか、亡霊っていうか、人形っていうか、空っぽっていうか、声に色は無いし表情筋は動かないし目に光はないし、まじで焦点がもうずっと合ってないのほんとうに怖かったんですよお……じゃれつく松也私の無邪気さが、ホラー映画序盤の楽しいからこそ不穏なシーンみたいな感じ。冒頭の再会シーンから怖すぎて半泣き。

再会シーンの彼、台詞をただ声に出してるだけ、みたいな違和感だらけで、廣瀬さん初見だったこともあって掴みかねてたんですよ。そしたら「やさしい炎」で歌い出した廣瀬彼がめちゃくちゃ声に感情乗ってるから、アッこれ台詞回しはワザとそういう、アッ、エッ?ってゾワゾワした。


いちばん怖かったのは、松也私の要求に応えたあと、現代から過去に戻って起き上がった廣瀬彼が「ニンゲンのカタチに見える虚ろな何か」だったことです。

なんにもない。あの中にはなんにもなかった。絶望とか諦めとか狂気とかじゃない。「なんにもない」んですよ。怖すぎる。

「なんにもない虚ろななにか」の重すぎる沈黙のあと、砂漠から絞り出したみたいにあまりにも消えそうに「思いついた」って呟いたの、ほんと夢に見そう。


次点が、歌わずに絶叫するなんて予想もしてなかった「ハ゛ン゛マ゛ァ゛であ゛た゛ま゛を゛わ゛る゛ぅ!!!!!!!!」ですね……ちびりそうだった……

イライラとか恍惚とか危ういとかそういう次元の話じゃなかったよね……あの怖さをどう表現すればいいのかわかんなくて「じゃない」ばっかり重ねちゃう。落としてあちこち壊れてしまって目からバネが飛び出てるねじまき人形みたいな、痛ましい不協和音。


そうだ忘れてた、「スポーツカー」も怖すぎた。ぜんぜん優しいお兄ちゃんじゃない。完全に瞳孔開いてるしものすごい不審者。だめだよそんな怪しいひとに着いて行ったら!!!!!

こんなに彼に怯えたスリルミー、はじめてだよ……



繋ぎ合わせてテープで巻かれた廣瀬彼

誘拐殺人に誘導されながら少しずつ表情と感情を取り戻していく廣瀬彼。松也私に無理矢理繋ぎ合わされて修理されていってる……って思いながら見てた。

すっごい「「「無」」」だったのに、後半すごい(歪んでるけど)柔らかく笑ったり、表情がコロコロ変わるの本当に、表情と歌声がものすごく感情豊かな役者さんなんだなあって思いました。はじめまして、今後ともよろしくお願いします……


わたしのだいすきな「死にたくない」が今回本当に好きすぎてニッコニコで観ちゃった。あのシーンで満面の笑みを浮かべてる客、ほんとにどうかと思うけど……好きすぎて……

だってあんなに「無」だったのに、すごく情けなくて怯えてて怖がってて、ぜーーーーんぶ顔と声に出てる。あとすごい突然空間が見えてびっくりした。小さな小さな独房のなかを長い手足を折り曲げて怯えて逃げ惑う彼の後ろにコンクリートの壁も鉄格子も見えたんだよ。びっくりした。

最後の台詞「死にたくない」が地底を這うような声で、このひとこのまま死んだら怨霊になりそうだな、と思いました。

いっそ「無」のままだったほうが幸せだったかもしれないのに、無理矢理なんとかテープでぐるぐる巻きに修理されて感情を取り戻してしまった廣瀬彼の独房、ものすごくかわいそうだった。

なのにその後護送車でスンッ……って「無」を装ってるけど冒頭と違って感情がじわっと滲み出てるんですよ。好き……って無音で呟きながらオペラ覗いてたよ。


あと姿勢というか背骨の使い方というか、立ち居振る舞いの微妙な差がすごい良かった。防御力MAXのときは骨盤から後頭部の先までピンと伸びて、お手本みたいな立ち姿。再会シーンで弟の話を出されて翳りが見えたときは少しだけ頭が背骨より前に落ちてて、最大限に興奮してる殺人直後は顎が上がってる。自信に満ちてるときは座ってても寝てても背中が伸びてるのに、取調室から護送車は背骨がまあるくなってる。

ああ、もう一回観たいなあ……



ちゃんと純愛だった松也私

なんでかわかんないけど松也私はちゃんと純愛できてたなあと思いました。あまりにも一方通行だけど。

前半の壊れてしまっている廣瀬彼の、松也私に対する行動がぜんぶ単なるコマンド入力でしかないじゃないですか???

目を合わせたら、顔を寄せたら、手で触れたら、そういう彼の行動によって私が反応を返すから「そう」してるだけ。心が抜け落ちた哀しいほど空っぽな行為。

ねえ、こんなぶっ壊れてる彼を前に松也私はなんでそんなに無邪気に喜んでいられるんですか?!!?!?!一方通行甚だしいな?!!?!?!


彼の心も感情もどうでもよくて、ただ概念としての「彼」が壊れるのが嫌で、そのカタチを保ってそばにいてほしくて、見た目も性能も無視してただテープでぐるぐる巻きにして「直した!」って言っちゃう感じの、一方通行な執着。でも確かに、ひたむきに、一途に、慈しみ大切にしているから、松也私にとっては間違いなく純愛なんだよ。相手のきもちを全く汲んでいないだけで、確かな純愛がそこにあった。(……相手の気持ちを全く汲んでない純愛って、何だ?????)


2021の成福レポで「なぜ私は仮釈放を望むのか」って話をしたんですけど

松也私は完全に「没収された所持品の中にある彼の写真を手に入れるため」だったと思いました。別に自由になりたかった訳じゃないんだろうなって。永遠に一緒だと思っていた彼が死んでしまって、会えなくなったのが苦しくて、逮捕されたときに(というかきっと肌身離さず)持っていた彼の写真を取り戻すために、釈放という手段を取った。ただそれだけ。

彼に出会っていなかったら、私の人生は違ったものになっていたでしょうし、仮釈放が認められて彼に再び会えたら、私の人生はまた違ったものになるから……


あとはなんてったって、53歳私の「隠された真実」。「彼とともに生きてゆくため」って歌った松也私、泣いてた。潤んだ左瞳からきれいに一筋、涙が落ちる瞬間を見ました。

だからやっぱり松也私は「純愛」なんですよ。



無邪気で人懐っこい松也私

ひとなつっこい私!!!!!新しい概念!!!!!

19歳冒頭の「僕はわかってる」で、あんまり必死さは強くなくて、諭すみたいに穏やかに余裕の微笑みを浮かべられる私、ぜったいクラスにちゃんと馴染んでる。本人が誰にも肩入れしないから独りなだけで、すれ違い様に挨拶はちゃんとするやつだよ……

ちなみにこの妄想差分の話は2021松山レポの続きです。


彼への執着も、遊んで遊んで!!!ってキャンキャン足元にじゃれつく小型犬(フィジカルはどう見ても大型犬だけど)みたいに陽キャな私だった。そう、陽キャだったんだな……

取り調べの後で離れていく彼に怒りをぶつけるところも、いままでみた私ってわりと「前から危ないとは思っていたけどやっぱり爆発したじゃん」って印象だったけど、今回は勇気出して声を上げた感じだった。

「スリルミー」も、粘着質な執着とか気持ち悪さがあんまり無くて、なんか健全な感じがするんですよね。聞いていますか、松岡私と成河私?


ほんとに怯えてそうだしほんとに困ってる顔だし、ほんとに泣きそうで、松也私はもしかしたら「わざとだよ」とか「司法取引を」はぜんぶ苦し紛れのデマカセだったのかもしれない、本当は証拠なんて何ひとつ無かったのかもしれない、って思ったほど素直な反応、に見えた。


そう、スリルミーで53歳私が語る内容と視覚的に見せられている19歳のふたりの言動とが一致しなくて、53歳私の言葉によって誤解させられているようなシーンがいっぱいあるじゃないですか。

だから、審議委員会が納得した「わざと眼鏡を残した」も、もしかたら誤解なのかもしれない。いままで気にしたこと無かったけど「取り調べの記録は残っていない」ですしね。34年服役してて、私の証言で彼が捕まったっぽいのに、その決め手になるはずの証拠をわざと残したのが今更な新情報なのも、それが嘘だからなのかも。とかね。考えたりしてね。

なんでこんなにおんなじ脚本演出なのにこんなに違う解釈が出てくるんだよお……



そのほか雑多な覚え書き

  • あまりにも気配がなさすぎた53歳松也私の登場シーン。分かってたしずっと気にしてたのに全然見つけられなかった。隠密か何かか?
  • 無表情だとカッコいい系統の廣瀬彼、表情が滲むと途端に可愛い系になるから「表情って大事!!!!!!」って思いました。
  • すごく「溜める」ペアだった。歌も台詞も「来る」って思うタイミングに始まらなくて、「えっ?」って見つめ直した2秒後にゆっくり顔を上げて口を開く、って流れが多かった気がします。
  • 「レイ」の呼び方っちゅうか声色が「こういうのが好きなんだろ?」のやつでズッッッッルイなって……
  • 「脅迫状」の読み上げを一文字一文字区切っていて面白い表現だなと思いました。
  • 廣瀬彼、たぶんわざと語尾を伸ばさずにぶつ切りで歌うの、感情の揺れを一切感じられなくてまじそういうとこだぞ彼……ってなる。だってハーモニーのとこはめちゃくちゃ伸びるし、「死にたくない」の語尾は別にぶつ切りじゃないんだもん。
  • 初日が終わって最大限の拍手に包まれて、ふっと緊張が解けるみたいに、ほっとしたみたいに表情と姿勢を緩めてパチンと手を合わせた尾上廣瀬ペア、なんかめちゃくちゃエモかった。


以上、スリルミー2023初日尾上廣瀬ペア感想殴り書きでした!なんか色々忘れてる気がするけど大事なことは書き残したので畳みます!

スリルミーはちゃんと全ペア書き残したいんだけど2021のにろまりだけ書けてなくて……下書きはあるのでなんとか仕上げたいし、2023の残り2ペアもちゃんと書くぞ!

脚本も演出も一緒なのにこんなに感想が書けるスリルミー、沼すぎ。