観たというより「目撃した」という気持ちがどうしても先行する中村仲蔵、東京千穐楽。芝居の魅力を再確認したお芝居でした。
芝居の魅力を再確認させる芝居を、舞台作品というエンタメとして上演するって、演じる側としてはハードル高すぎだと思うんですけど、まじでほんとうに出演陣が誠心誠意この芝居に向き合って全力で板の上で芝居しているのが伝わってきて、この芝居が見られて良かったなあって心から思った。もちろんすごく面白かったけど、その面白さよりも「いい作品だった」って感想が上回るほど良い芝居体験だったので書き残しておきます!!
他に誰が仲蔵を演れただろう
舞台で活躍する役者さんはたくさんいらっしゃって、その誰もが唯一無二の道を歩んでおられるのは分かっています。
でも、中村仲蔵は、この舞台は、きっと藤原竜也以外の誰にも演れなかった。
そう思わせるほどの怪演。「怪演」って表現は人生で初めて使ったけど、ほんとに存在するんだなって思いました。
舞台に立つこと、芝居に生きること、役を突き詰めること。血筋も経歴も持たず、我が身ひとつで役者という生業に命をかけて向き合って、追い求めて、突き抜けて、前例を飛び越えて、血反吐を吐きながら、ただひたすらに「もっと良い芝居」を求め続けた孤独な伝説。
これは、この舞台だけは、藤原竜也以外の誰も真ん中には立てなかった。彼が演じるべくして上演された芝居でした。藤原竜也と同じ時代を生きててよかった。
わたしが舞台を観るきっかけになったのが藤原竜也で、舞台の沼に足を踏み入れて最初5年くらいは彼の舞台作品を片っ端から観てた。とはいえ全て観られたわけではないし、映像作品なんかもっと見逃してるし、ただ、生で観る舞台の面白さを教えてくれたのは間違いなく彼だった。
SNSもやってなければトーク番組にもそれほど出ない。ただあの人の芝居に、存在感に、役として生きる姿に惹かれて、それを観るために劇場へ足を運んでいた大学生の私。あの頃の私に、はやく藤原竜也の仲蔵を観せてあげたいよ。こんなすごい芝居を演る人だよ。中村仲蔵、間違いなく彼の演劇人生で代表作のひとつになる演目だと思いました。(なお映像は圧倒的にカメレオンがすきです)
舞台装置と外郎売
大きな三階建てのセット二つが縦横無尽に動いて空間を作っていくの、めっちゃ良かった。ロンドン・ウエストエンドのLes Misérablesみたいだなと思いました。
とにかくデッカイ舞台装置の使い方がうまい。(褒める語彙力が足りない)
両サイドに階段が出てくる「地下」の奈落とか、二つのセットがパカっと割れて「道」を作った雨の街道とか。舞台になったり楽屋になったり、2階でメインの芝居が進んでいる間も3階にいる役者たちがしっかり時間の経過や物語の膨らみを作っていたり……
そのデッカイ舞台装置が作る緻密な空間がいちばん良かったのが外郎売です。っていうか舞台装置云々を置いておいても外郎売はやばすぎた。
本家歌舞伎の外郎売は観たことないので知識としてしか知らなくて、冒頭は「わあ、外郎売だ!」くらいにしか思ってなかったんですけど。ねえ、あんなに個人の技量が試される演目だなんて知らなかった!!!!
最初は淡々と喋り出したのに、どんどん藤原竜也が作り出す渦に巻き込まれて、どこまで行くの?って引きずり込まれていくあの衝撃ったらないよ。
それを演出しているのがあのデッカイ舞台セットなんですよ!!!
最初はセットの全部の空間にロールカーテンみたいな幕が降りててただの壁なんですよね。それが外郎売が盛り上がってくる中盤あたり、観客も「どこまで口が回るの???」って思い始める頃。デッカイ舞台セットの幕がひとつだけ上がる。食い入るように仲蔵を見つめる役者がいる。ふたつめ、みっつめの幕が上がる。みぃんな引き込まれるように外郎売を見てる。どんどん幕が上がって、どの役者仲間たちの目も仲蔵に釘付けになっている。
わたしたち観客が「引き込まれていく」感覚を持つタイミングで、舞台の奥の役者たちも同じように引き込まれていって、板の上の真ん中にひとりぽつんと座る仲蔵に前も後ろもみんな引きずり込まれていくあの瞬間、いかに仲蔵が「伝説」だったかを肌で感じた気がしました。吸引力がすごい。
っていうかそんなことになってる藤原竜也すごくない?どうなってんの???
花道が最高
話が前後するけど、前情報をなんにも入れずに千穐楽へ飛び込んだので、客席に入ってびっくりしたんですよ。ブリリアに花道なんて作れるんだ??????!?!新感線もやろうよ、花道ブリリア。
歌舞伎は出捌けが大きな見せ場になっていることがほとんどだし、花道って「もうひとつの舞台」って感じだけど、仲蔵の花道はもっと「象徴」って感じがしました。
仲蔵が何度も口にする「目を瞑ると浮かんでくる、まっすぐに伸びる一本の道」が、木戸銭を払って観に来た客の間を通っている。芝居の盛り上がりを生み出す華やかな舞台装置じゃなくて、先の見えない不安と未知への恐れが入り混じった、こことは違う何処かへ続く道。未来と現在との端境。
こうやって考えたら、与えられている役割としてはもしかしたら本家の歌舞伎と同じなのかもしれないけど、よりその象徴性が際立っていたなあという気がします。
ていうか、前方花外席から観る仲蔵、あまりにも「すべてが見える」ので最高だったんですよお…
花外って「花道芝居がぜんぶ背中になっちゃうからイマイチ」みたいな通説があるけど、いや確かにそうなんだけど、成志さんも高嶋さんも莉生くんも背中向けてたけど、それよりもライトを背負って花道を進む役者たちの表情が見えるの本当に最高だった。
1番良かったのはねえ、ちょっとどのシーンか忘れましたけど、ひとりでゆっくり花道を進む藤原竜也が、舞台からのライトの逆光に入って、まさに「光」から「影」に足を踏み入れる瞬間を目撃したことです。足元の照明とか客席側からのピンスポとか、花道の役者の顔を照らす照明なんて山ほど用意されてるのに、たぶんどれも敢えて使われてなくて、七三を過ぎるあたりで急に前半身が影に入って、光を背負ったまま影を抱く仲蔵がビジュアルとして完成されててハッとした。ちょっとどのシーンか忘れましたけど…
忘れた理由は、ほかの3つの花道芝居がシーンとしてインパクトが強すぎたからです。っていうか、書きたい感想の7割が花道芝居な気がする。
my fav 花道芝居1:さきの引っ込み
この作品唯一と言っていい引っ込み芝居!!!(感想には個人差があります)
※感想には個人差があります!!!
引っ込み芝居が唯一だったかどうかはね、感想には個人差がありますのでね。わたしはこのシーンだけが明確に「引っ込み」だと思いましたという話。
花道を使った印象的な演出は多々あったけど、引っ込みという形で「退場」をあんなに劇的に印象付けるのほんとずるいなー!と思いました!尾上紫さんのお役、どのシーンもそんなに長くないのにめちゃくちゃ印象的でずるい。(母たちめっちゃ良かった)
おっとりのんびり天然っぽさを発揮していた、良いとこの娘さん然としたさきが、家が没落して落ち延びるしかなくて、険しい顔で哀しみを堪えて、新左の未来を憂える強い母の姿を見せるあの引っ込み。
新左の運命が反転した瞬間を表すのに、あんなに効果的な引っ込みある?!!
っていうか、そこでガチで三味線弾く市原隼人もずるすぎるんやが??!!?!
前方花外から間近にみえるさきの表情と新左の三味線、贅沢すぎたmy fav花道芝居です…
my fav 花道芝居2:これより先は孤独
いやー、もう良すぎるでしょ高嶋政宏…知ってた…
「目を瞑ると浮かんでくる、まっすぐに伸びる一本の道」の向こうから、ゆっくり微笑んで仲蔵を迎えにくる、歌舞伎界の特別な名跡「團十郎」の姿。
その意味を悟って、一瞬だけ子供みたいな頼りなさげな表情に戻る仲蔵。
曖昧で明言されないけど、この確固たる師弟関係のふたりが、ほんとうにもう、並び立つ才能ってこういうことなんだなって。
仲蔵がもう戻れない花道に足を踏み入れて、ゆっくり團十郎がその道をあけわたして、花外席からはその團十郎の背中だけが見えてるんですけど、何の悲しみも憂いもなく、ただ堂々と道を譲ったその背中がほんとうに素敵で…
これほんとに蛇蝎と同じ人?って自信無くなって検索しました。間違いなくお兄ちゃんで合ってた。役者ってすごい。
その團十郎を追い越す仲蔵が、團十郎に一瞥もくれず、思いも残さず、ただ前だけを見て進んでいくのがほんと、そういうとこだよな〜〜〜!
でも、ほぼ真横から観てると、追い越す瞬間グッと踏み出す一歩がすごく重いんですよ。別に足を踏み鳴らしてるわけでも、目立った歩き方をしてるわけでもないのに、すごく重い一歩。
あの一歩が、歌舞伎界の歴史的な一歩なんですよね。ほんと、演劇界のレジェンドを演劇で表現するの、高すぎるハードルを飛び越えていて眩暈がする。
my fav 花道芝居3:次世代への布石
鶴屋南北!!!!!!!!!!!
いや、待って、鶴屋南北!!??!!?!?!
笑三さんの後ろに立ってる見たことない若い衆的な斉藤莉生が、なんか意味わからん存在感を醸し出してるけど、それ誰???って思ってたら、ニヤッと笑って名乗った瞬間鳥肌が立った。無知な私でも名前聞いたことある狂言作家やないか……間違いなくどえらい大物だよ……
物語の構造として、あそこで次世代の大物狂言作者出してくるのはずるすぎる。本来は時代的にまだ鶴屋南北を襲名してないみたいなんですよ。でもあそこで名乗ることに意味がある。同じ時代を生きた役者で仲蔵の影響を受けない者が居ないように、五代目團十郎も、鶴屋南北も、すぐ後の時代を生きて仲蔵の影響を受けない者がいるものか!
東西の歌舞伎界に大きな大きな爪痕を残したことが、あの鶴屋南北の登場で明示されるの、ほんっっっっとずるくないですか??!!?!?!?!
ちなみに会場出てフォロワーさんと合流して開口一番「あの鶴屋南北の存在感なに??!!?!?!」って混乱が口から飛び出た。なんで、なんで突然そんな存在感出せんの????
それまで名も無い女方とか稲荷町の若手役者とか、物語の時代と世界を組み上げる一員としてスッと景色に馴染んでたくせに、あの花道でだけ突然「異質な存在」としてその場に立ってるの、本気で意味わからんのですが斉藤莉生って人生何周目?(ミステリアス・ストレンジャーのレポでも言いました)
良い芝居だったなあ…
ほんと、何回思い返してもこの感想しか出てこないし、終演後に呟いたこの投稿に自分で何度でもいいねしたい。
中村仲蔵、どう考えても藤原竜也のための芝居だったし、市原隼人はカッケェ…としか言えない男前具合だったし、高嶋政宏は紛れもない先達だったし、突然めちゃくちゃ存在感ある若手出てきたと思ったら鶴屋南北だった斉藤莉生の衝撃ったらなかった。いい作品だったなあ…
— 胡瓜 (@9ri_dramatic) 2024年2月25日
ねえ、思い出しました。三味線以外の市原隼人の話をまだしていません。畳む前に見出し追加する。
ずるすぎる存在
ねえ〜!市原隼人のずるすぎる肉体美!脱いだ瞬間笑っちゃったよ!!!!!圧倒的強者・陽の者の肉体だった。陰陽道なんてひとつも登場してないけど、陰陽ってほんとに存在するんだな……って思わされた圧倒的な「陽」の気。仲蔵の前に現れる「異なる者」として最高の存在だったよね。仲蔵はぜっっっったいに隠の者なので…
でも前述のとおり前情報をひとつも入れずに飛び込んだのでもちろん配役も見ておらず、結構序盤で八百蔵がナレ死してどうしようかと思いました。
歌舞伎役者…ほんと推しは推せるときに推さないと…人間いつ死ぬか分かったもんじゃないですからね…
二役目で出てきてほっとしたけど、今度は三味線弾きで腕も立つ武家の末っ子って、設定がトゥーマッチで白目剥きそうだった。中村仲蔵の市原隼人、無敵じゃん。
雨の蕎麦屋で半身振り返った新左のシルエットが天才すぎて拝みました。仲蔵と一緒にわたしも「これだ……!!!」って心の中で叫んだよ。まぎれもなくあれが「「「正解」」」でした。
自信と野心しかない八百蔵と、誠実で欲の無い新左って真逆のキャラクタを両方自分らしく演じていて、この人ビジュアルisパワー!って感じなのに演技もできるし三味線も弾けるのほんとうにずるすぎでした。天才。
屋台骨のしゃべくり
ギリギリで思い出したのでもうひとつ見出し追加します。わたし池田成志のあの喋り方が好きすぎるって何回も言ってるんだけど、ずっと喋っててまじで最高だった。
ひとりだけ世界線を外れた存在で、でもデウス・エクス・マキナではなくて、ちょっと伝わりづらい歌舞伎の「別格」を自然に理解させる装置で、メタ的に物語の解説をしてくれる有難い存在。
ともすれば「ただの便利なシステム」になってしまいそうなのに、しかも他があんなに地に足ついた世界観のお話なのに、成志さんのあの独特な存在感がすごくちょうど良い感じに違和感を無くしていて、なんで???ってめちゃくちゃ思いながら見てた。
実在した過去の役者の話を誠実に堅実に描いてるのに、そこに違和感なく神様が登場してるの、普通は意味がわからなくないですか???
藤原竜也だったから成立した芝居だったけど、池田成志でこそ成立した芝居でもあったと思います。実はほぼ新感線でしか観たことないんだけど、あのひとはほんと、間合いの取り方が天才的すぎるし、板の上と客席とを繋ぐのが上手すぎるんだよなあ。
今度成志さんが出てる新感線じゃないストプレ(新感線にストプレなんてあったか?新感線は新感線というジャンルだね…)を観に行こうとあらためて思いました。
やっぱり良い芝居だったよお…
前情報入れてなさすぎていまどこで公演やってんの?ってサイト観にいきましたけど、明日から名古屋!そのあと宮城!福岡!大阪!と続くみたいです。全国ツアーじゃん。
大阪は新しいSkyシアターMBSですね。立地だけでめちゃくちゃ最高なのに、あのBRAVA!の後継劇場って聞いて、柿落とし前からハコのファンになりそう。シアターBRAVA!、快適だし演目ラインナップも良くてめちゃくちゃ好きだったんだあ…
柿落としとしてこの中村仲蔵を上演するって、劇場のあゆみとして贅沢すぎて羨ましい。(しかもちゃんと藤原竜也の舞台でSkyが命名権取っててほんと徹底してる…すご…)
オープニングシリーズの間に、ちゃんとSkyシアターに観にいきたいなと思います!!!
うっかり劇場の話になっちゃった。
仲蔵の感想に戻りますが、このカンパニーでこの芝居が上演される時代を生きていることに感謝したい。
プライベートに余裕があればもう一度(それこそ大阪へ)観に行きたかったです。外郎売の引力をもう一度感じたい…
映像としても残るかもしれないけど、現場で感じたあの引力は生の舞台ならではですよね。やっぱり現地で観る舞台をあいしてる、と再確認したお芝居でした!ほんとうに良い作品だった!!!