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出演者も原作もハジメマシテな舞台に飛び込んだ話【ザ・ミステリアス・ストレンジャー】

何にも知らない舞台を観に行ったので感想を残しておきます!7月22日〜30日、浅草九劇で上演中の「The Mysterious Stranger(ザ・ミステリアス・ストレンジャー)」です。当日券あるってよ。

そもそも原作のある作品だし、ストーリーより演技を満喫するタイプの芝居だと思うし、ネタバレ書いてもあんま意味わかんないと思うのでネタバレはあんまり気にせず書いてます。


4人しかいない出演者はだれも観たことないし、原作の「不思議な少年」を書いたマーク・トウェインも一度も読んだことがないし、浅草九劇なんて行ったこともなかった。それなのに観に行ったのは、斉藤莉生という役者の演技に興味があったからです。



斉藤莉生という役者への興味

舞台ハリー・ポッターと呪いの子の主役のひとり、スコーピウス・マルフォイの初代キャストさんです。呪いの子がデビュー作だったうえに、私が観た呪いの子は別キャストさんの日だったので斉藤さんのスコーピウスは観たことない。観たことねえのに何で気になってるって、スコーピウスの反響がすごかったからです。



基本的に複数キャストの演目や再演・キャス変は「もちろん好みはあるけど、みんな違ってみんな良い」が信条の差分大好き人間なんですけど、その上でSNS上の斉藤さんへの評価が面白くって気になってた。まとめると「斉藤さんのスコーピウスにはスコーピウスとして生きてきたこれまでの人生がちゃんと存在する」っていうやつ。しかも何人も同じようなこと言ってたんですよね。

たぶんこういう感想が出てくる役者って、ただイメージがぴったり!とか演技が上手い!とかとはちょっと違う。ストーリー上で「そのキャラクタがどう感じたか」を理解してるだけじゃなくて「そのキャラクタはそもそもどんな時にどんな感情を持つか」を理解して反射的に出せるひとにだけ、そういう感想が出てくるんじゃないかと思っています。声優さんがキャラクタになりきってアドリブで回答するコーナーとかでよくわかるやつ。

とにかく、描かれていないキャラクタの人生が透けて見えるという感想を観客に抱かせることができる俳優さんってことで、いつかお芝居を観たいなあと思っていたのでした。

結論、めちゃくちゃキャラクタの感情が動く根拠を理解して演じてる役者さんだった。やべえ。


ザ・ミステリアス・ストレンジャーとは

原作あるとは言えさすがにマイナーすぎて、感想の前に私なりのあらすじと人物紹介挟みます。正しいかどうかは保証しない。

舞台は中世オーストリアの平凡な田舎町。ほんとうに平凡で、大した事件もなく、きっと貴族や軍隊とは無縁で、喜怒哀楽が揺さぶられる事件もなく、祖父の代から何も変わらない生活を送っていそうな、敬虔で慎ましやかなカトリック教徒の町で小さな事件が起こる。そこへ自らを「天使」と自称するサタンが現れて、不思議な力で人々の人生に干渉した結果、いろんな人生がぐっちゃぐちゃになっていくお話。

見どころは、白石さんと斉藤さん2人の演技と感情がぶつかる熱量がすごすぎる問答シーンと、感情をぐちゃぐちゃにされていくテオドールを演じる斉藤さんの感情表出です。

一度しか観てないからアレだけど、たぶん「あなたが盲目的に信じているその善悪の基準は、誰かに捻じ曲げられていませんか?」みたいなのがテーマとして根底にあるのかなーと思っています。

サタン/白石隼也

自らを「天使」と名乗る異質な存在。無いものを出したり、人の行動を操ったり、不思議な力を持っている。人間とは違う判断基準を持っていて、なぜこの町へ来たのか、なぜここに居るのか、なぜそうするのか、人間である私たちは「異質」である彼のことを何も理解することはできない。髑髏城で言うなら一人二役ver.の天魔王。/演出も担当。スタイルがいいしそのスタイルの効果的な見せ方を知っていてズルい。演説にパワーがあって気圧される。スリルミーなら彼。

テオドール/斉藤莉生

あまりにも平凡な青年。昔のオルガンの先生で初恋の人(じゃないかと思う)マーゲットを救いたいけど、自分もとばっちりを受けるのが怖くて一歩踏み出せないし、踏み出したら踏み出したで空回るヘタレ。主要な登場人物だけど主人公ではないので、特別な能力も勇気もチャンスも運も器用さも後ろ盾も持ってない、ほんとうに平凡な青年。髑髏城なら青吉。/顔と身体に表出してくる感情が凄すぎて震えた。スリルミーなら私。

マーゲット/大川由愛

唯一の肉親である叔父・ピーター神父が教会を冒涜した罪で有罪になったせいで職も居場所も夢も失った、町のマドンナっぽい女性。テオドールの好意には気付いてるし悪い気はしないけどその気は無いのに突き放すこともしない。死んだ両親の夢である宮廷楽団のオルガン奏者を目指しており、職を失っても気品と礼節を失わず、田舎の町娘とは思えないほどしたたか。

アドルフ神父、猫、ほか/坪内守

たぶん中央から派遣されてきた神父で、世間知らずな町の人たちを見下しながら権力に浸っている、わかりやすい嫌なヤツ。そのほか、上3役以外のほとんどの役を演じている。めっちゃ大変そう。猫は人懐こくて好奇心旺盛。猫役めっちゃ上手いですびっくりした。

以下ようやく感想です!


平凡で臆病な青年と未知との遭遇が秀逸

斉藤テオドールと大川マーゲットが、なんていうか、めちゃくちゃ「中世の敬虔なカトリック教徒」っぽいんですよ。知らんけど。質素な服装で、きちんとした言葉で、きちんとした距離感で、感情を揺らすことなく謙虚な態度で会話を重ねていく。

そこへ突然登場する白石サタンの異質っぷりがまあ、もう、ずるいよね!!!張りのある黒のシャツ、黒の細身のパンツ、黒のミドルコート。頭身も相まって完全に現代人。中世オーストリアの田舎町に仮面ライダー俳優がいるという異質。スタイルがいい…

斉藤テオがゴワゴワしてそうな生地のシャツと太めのシルエットのパンツ(もうちょっと貧しかったらきっと膝のところに当て布がしてあった)だからほんと、それだけで対比がすごい。

そして現代の言葉遣いで、感情のまま率直にラフに言葉を投げるサタンに釣られるように、テオとマーゲットもだんだん感情が言葉や叫びとして表出していくの、まじで未知との遭遇で変わってしまった彼らの人生…って感じでめちゃくちゃ良かった。



ヨソモノで奇妙なサタンをテオとマーゲットが信じるまでの流れが短くて惜しいんだけど、チョコレートを食べたりミートローフをねだったりする斉藤テオの、無表情の向こうからじわじわと笑みが滲み出てくるみたいな表情から察するに、平凡な町に訪れた「スリル」ってのもサタンを頼る理由として大きかったんだろうなと思いました。好奇心は猫をも殺す。

っていうか、「無表情の向こうからじわじわと笑みが滲み出てくるみたいな表情」って何?!やばくないか???なんだあの絶妙な感情??!?!?!


斉藤莉生の感情表現が異質

いやマジで、感情の表出が自然すぎて怖かったんですもん。すごいコントロールされてるのに、コントロールされてる感が全くない。この時代にこの生活を送ってきたテオが今こういう状況だったら自然にこうなりますよね?って姿を見せられている。足がすくむときは本当に足がすくんでるし、本当に気圧されて後ずさるし、身体の底から怒りややるせなさが込み上げて叫んでる。

驚いたシーンは以下山ほどあったんだけど、結局いちばん印象に残っているのは冒頭のふたつのシーンです。

神父

冒頭、暗闇の中で有罪判決を受けるピーター神父の役を斉藤さんが担当してらっしゃるんですが、判決が降りた瞬間、声もなく吐いただけの息しか聞こえなかったのに、それが完全に未来に絶望した音で、こっちが声を出しそうになりました。

冒頭の独白

テオの独白で始まり、テオの独白で終わるミススト。

冒頭、スポットライトの下で立ち尽くす斉藤テオが、立ってるだけでこの世の絶望全てを背負ってるみたいで、喋り出したら生気が全く感じられなくて、スリルミーの私かと思いました。

ラストの独白

これは演技というより構成の範疇だけど、冒頭と同じ独白を笑顔すら見せながら叫ぶように語るテオ、対比がズルい〜〜〜!!!!!そして最後の一言だけ感情がゴソッと抜け落ちて絶望が漂うのがまじでコントロール〜〜〜〜〜〜!となりました。

駆け寄る・後退る

終盤のテオとサタンの問答のとこで上体から前のめりで駆け寄っていくやつ、それ、スリルミーの松岡私で観ました!!!気持ちが前のめりになってるけど足がついていかないやつ!最高!
そのあとサタンに気圧されて後ずさるところ、すごい、いままで舞台で観た後退りの中でいちばん「気圧されて」たんですけど、普通に生きてて気圧されることなんかないから、そんな自然に「やったことあります」みたいな顔して後退れるひとってそんなにいないと思うんですけど…斉藤莉生の人生どうなってんの…

叫ぶ

テオが思うようにいかなくて、ままならなくて、ウワー!って叫んで発散するシーンが何度もあったんですけど、特にアドルフ神父とマーゲットが出ていった教会で、シャツの襟元で口を押さえた向こうから出てきた「ア゛ァァー!!!」って叫びが「声を出してる」んじゃなくて「叫んでる」んでもなくて、完全に「ままならないモヤモヤが腹の底から迫り上がって口から出たらこうなった」だったので、この人は人生を何周してるんだろう、と思いました。

突き飛ばされる

2、3回突き飛ばされて転ぶんですけど、このひとマジで突き飛ばされて転んでるんですよ。背中から行くの。吹っ飛ばされるのに躊躇いとか恐怖とか無いんか?!ほんと、どうなってんの?!

崩れ落ちる

膝から崩れ落ちるテオ、崩れ落ちるタイミングとかコントロールされてるはずなのに、すごい自然に「だんだん脚の力が抜けてしまって崩れ落ちていく」を見せられてびっくりしました。

ねえ、これ書いてて思ったけどもしかして斉藤莉生って身体コントロールがめちゃくちゃ上手い???驚いて身体が跳ねるとか、怒りで震えるとか、怖くて竦むとか、感情と結びついた身体反応を、無理なく自然に自分の身体で再現できるから、本人から自然と表出したように見えるんじゃないか???

凪ぐ

いやでもさあ…問答で感情が乱高下して荒れ狂って振り切れて突き抜けたときに、ストン、と突然平坦で穏やかで柔らかい受け答えになるの、それは身体反応じゃなくて感情のコントロールなんだよなあ…スリルミーの護送車でみたことあるやつ…凪…

観劇一度じゃここらへんがもう限界だ!とにかく斉藤さん、感情の動きを舞台上で限りなく自然に表出させることができる、意味わからんひとでした。斉藤さんは次の再演でぜひスリルミーの私を演っていただいて…で、斉藤さんのオタクはとりあえずスリルミーで松岡山崎ペアをご覧いただいて…絶対に親和性高いので…


白石隼也にはパワーがある

ズッッッルいんだよなあ…と何度も思わされた白石さん。脚本も演出も演技もさあ…ズッッッルい…

脚本

終盤のテオとサタンの問答、白石さんはあそこを描きたくて脚本演出をやったんじゃないかなと思った問答シーン。(白石さんのことは何も存じ上げないので何も分かりませんが…)
白石さんのパワーが完全に場を支配していて、めっちゃ迫力あって圧倒されて、とてもよかった。



善悪を判断できるはずの人間は、分かっていて敢えて「悪」を繰り返す。それなら善悪を判断できることに何の意味があるのか。

人を殺すのはダメ。でも人間は大量破壊兵器を作り戦争を繰り返す。拷問はひどい。でも人間は罰という名の拷問を許容する。搾取は悪。でも人間は過酷な労働から逃れることができていない。

私たちが信じている善と悪の線引きは、誰かの利益のために誤魔化されていないか?ほんとうに、その線引きでいいのか?いま正に戦争が行われているこのタイミングで、その事実を客席に問うメッセージ性が強すぎてズルい。



っていうかずうっと飄々と「全部わかってる」って態度で喋ってたサタンが、急に熱を込めて声を荒げて、しかも唯一客席に向かって語り掛けてくるのズッッッルい!!!!サタンお前俺たちのこと見えてたのかよぉ…

そこで感情をぐるんぐるんに揺らして呼応してた斉藤さんが終盤で突然「一歩でも進歩している」って事実に安心して、ヒュンッと「凪」になってサタンの絶望の向こう側にも希望を捨てずに進む姿勢を見せてくるの、本当にズルい。殴っても殴っても衝撃吸収するクッションみたいだった。あの2人の感情の応酬、どこまで脚本と演出で指示されてどこから本人の演技プランなの…?

演出

脚本と演出の境界が難しいけど…
拷問のようす、労働者の死、発狂のトリガー、絶望の瞬間、そういう苦しみを地に足が着いたかたちで描いていてほんとうにエグいなと思いました。褒めてる。描写がぜんぜん大袈裟じゃなくて、見落としそうなんですよ。でもたぶん実際の死も実際の絶望もそんなに分かりやすくはなくて、見逃されるくらいひっそりと起こってるんだよなあ。リアルな狂気、大好物。

ステージングも演出に入る?舞台を手前と奥とふたつに分けるの、あんま見たことなくて面白かったです。奥のスペースが無駄にならないか不安になったけど、4人芝居だからあれくらいの距離感がちょうどよかったよね。あと窓の使い方がすごい上手い(語彙力)。ちょっとグラデーションのライトを当てればステンドグラス風で教会の窓だし、普通のライトなら家の窓だし、逆光の光源にすることもできる…

あと一度じゃ検証しきれてないので、サタンが扉を使うときと使わないときの法則を誰か解明してほしいです。

演技

基本的にサタンは「異種」である人間には全くの無関心である。

っていうのが視線ひとつ、表情ひとつで示されていて、なんていうか、コントロールされてる〜〜〜!って感じでした。カエルのおもちゃで猫と遊んでるときと、テオに毒を差し出す時と、テンションが同じなのよ。やめてくれよ。ピーター神父に囁いた後も、視線にマジで興味の色が何もないのよ。

特にマーゲットからのキスを頬に受けた時が、本当になんの動揺もなくて、まじで無関心の上にある「意味がわからない」の顔でめちゃくちゃ刺さった。 「学校一のイケメンとモブ」とか「アイドルとファン」とか、そういう眼中にないとかいう問題じゃないのよ。自分に対して何でそんなことをするのか心底分からないって顔をしてる。なんか…もう、あの表情を観てよ現場で…

スタイル

芝居の話するときに「イケメン」とか「スタイルがいい」とか芝居関係ない要素への褒め言葉って陳腐だなと思いはするんですけど、白石さん自分の格好良さとその見せ方と使い方を心得すぎていて笑うしかなかったんですよ。

中世オーストリアの田舎町に現れる、タイトな黒装束の仮面ライダー俳優、綺麗な革靴で椅子の上を大股で歩いて、足を組んでコートを翻して、まじでどこからどう見ても「異質」でしかなかったので…その衣装似合いすぎなんよ…ビジュアルはパワーっていうけど、スタイルと立ち居振る舞いもパワーだよ…

特に終盤の暗転から、ステンドグラスの窓を背に講壇に腰掛けて長い足を組んで現れたシルエットが天才すぎて息を呑んだ。っていうかお隣の白石ファンが音のない悲鳴を上げてた。ほんとズッッッルい…


ザ・ミステリアス・ストレンジャー

力尽きたので大川さんと坪内さんの話まで書けなかった…大川さんは動きがバレエっぽいなと思ったらミュージカルの人だったのですごい納得した。意志強そうな目がマーゲットのしたたかさを際立たせていてよかったです。坪内さんは配役の振り幅が大きすぎて目が回りそうだったけど、アドルフ神父とご本人が全然違うんだろうなって思いながら見てました。あと猫!猫が本当に猫ですごい、役者ってすごい。



調べてみると原作は3稿とも未完だそうですね。マーク・トウェインが何を伝えようとしていて、白石さんがほんとうはそこから何を拾い上げたのか気になるので、そのうち原作読んでみようかな。

ひとまずは念願の斉藤さんのお芝居を浴び、それがまあ、オタク大好きな「ぐずぐずに崩れていくニンゲン」の役だったのでニッコリしてしまったわけですが、また近いうちに板の上で会えたらいいな!ぐずぐずに崩れていく斉藤莉生めちゃくちゃよかったので、スリルミーか繭期で観てみたい。すぐ地獄みたいな作品に出てほしがるオタクですまんな…