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気付けばハマる、そこは沼。劇団☆新感線を中心にお芝居について好き勝手書き連ねる場所。

唐版 風の又三郎 という空間【大千穐楽感想】

わかんない。

わかんないけどとりあえず何か、この、指の隙間からこぼれ落ちていきそうなこの感覚を、あの空気を、どうにかして残しておかないといけないような気がして、とりあえず書いてる。

 

はてブロのこの真っ白なドキュメントを開くとなんとか文章になるような気がするけど、twitter開くとうええ、とか、ううう、とか、そんなのしか出てこない。つまり、このお芝居を140字以内で要約しろって言われると「窪田正孝と柚希礼音が、うええええ…」になる。

でもちゃんと書けって言われても「窪田正孝と柚希礼音と北村有起哉と六平さんがう〜〜〜〜ん?」だからあんまり変わんない。

つまりあらすじらしきことは何も書けそうに無いけど、ネタバレはあるので気をつけてください。

 

私と唐版 風の又三郎

本当は、チケット持ってなかったんですよ。そしたら東京公演を終えた猛者たちが次々と絶賛するから…観たら…大正解だったよね…

窪田くん、いつからか(いつだろう、STかな。)とても気になる役者さんのひとりで、乱鶯のアンケートに窪田正孝を出せと書いたことを覚えていますか?ヴィレッジ?

そしてはじめての唐十郎満を持しての唐十郎藤原竜也から蜷川幸雄に踏み込んだ頃、下谷万年町物語盲導犬は、観たかったのに観られなくて、両方同じ脚本家さんで、よく覚えてる。まだ両方ともチラシは取ってあるよ。そしてちゃんとWOWOW録画してDVDに落として、観てない。往々にしてよくある。

そんな風の又三郎、初見にして大千穐楽。ただ、大千穐楽の弊害として、特別なアドリブが多すぎて、ただでさえ難解なのにメタ的な台詞が増えすぎでほんとにちょっとよくわからないので、通常版もください。(WOWOWありがとう)

ほんとは書かないつもりだったけど一応書いとくね。11日に窪田くんが怪我をされたそうで、演出変更だったそうなんだけど、どっちみち初見だし感想には何にも関係なかったので以下触れません。ほんと、どうぞお大事に。

前置きが長かったけど、ようやく本編です。ネタバレもあります。自衛してください。

 

 

唐版 風の又三郎という空気

すきとおったにおい、もやに包まれてぼんやりとした視界、しゃらしゃらどうどうと聞こえる風の音。

あすこへは近寄っちゃダメよ、危ないから。と、昔々ママに手を引かれて止められた路地裏みたいに、知ってるようで知らない世界。

苦しくて汚くてどろどろした人生を、甘い甘い夢と嘘みたいな現実でくるんで、突然かみそりで切りつけられたみたいな、そんな感覚。

自分でも言ってることがぜんぜんわからん。

わかんないけど、ぜんぜん知らないけど、どこか懐かしいような、でも忘れたかったような、そんな空気を吸い込んだお芝居。

 

正直、脚本はサッパリわからん。メタファーもファクターもモチーフもわからん。ヴェニスの商人は学生時代に読んだけど、当時もわかんなかった。

ぜんぜん分かんないけど、ぜんぜん分かんないのに、知らないうちにボロボロに泣いてた。哀しいのか、切ないのか、幸せなのか、ぜんぜん分かんないけど涙が止まらなくて、ただ美しくて純粋で、よく見えないけど遠くできらきら光ってる何かを見つけて目を細めているみたいな、そんなぼんやりした気分。

WOWOW待機、とは書いたけど、あの空気を観に行ったのだろうなとは思うし、映像で観てももう泣くことはないんだろうと思う。

 

 

とにかく分からない一幕

前評判が高かったけど、正直わたしには無理かも、って諦めかけた。唐十郎、難解すぎる。シェイクスピア観てるような感じ。わからん。

又三郎や三腐人の台詞回しは幻想的で、織部の言葉が突然現実に引き戻してくる。死に向き合ったと思えば変なおじさん、恋を語ったと思ったらヤク中が走り回る。ジェットコースターみたいに振り回されて、現実と夢と虚構と嘘の境目がわからなくなったところで、わたしと現実を繋いでいた織部すら、正常ではなかったことを思い出す。そして物語は耳の中の世界へ。もうわけがわからない。

もお〜〜わたし、井上ひさしとか中島かずきとか、明瞭な筋のお芝居で甘やかされた観劇人生を送ってきたからさ〜〜!ううう、楽しみ方がわからない…とめそめそしていた一幕終わりのわたしに、安心しろって言ってあげたい。

でもそんなわたしをすくい上げてくれたパンフレットちゃん。優しい。登場するモチーフを解説してくれてるページを見つけた。読んだ。あんまりわからなかった。うん!

もうちょっとページを捲ると、テント時代の写真とエピソードを見つけた。あ、こんな雰囲気の場所で演劇をやってきた人たちなんだ。と思った瞬間、腑に落ちた。そこに行くことがもう芝居の一部なんだな、って。だから、ここにいるわたしは、もう風の又三郎の世界の内側にいるんだって。

ここに座って、シェイクスピアのお芝居みたいに台詞を楽しむこと。ここに座って、なにかを表現しようとしている演者たちと同じ空間に身を置くこと。わたしもここにいます、と意思表示をすること。それがこのお芝居の意味なのかなって思ったら、とてもすんなりと二幕に入れたよ。

 

 

最後にぶん殴られた二幕

とはいえよく分からない!!!!!

わからないままお芝居の舞台も時代も変わって、蝸牛が歩いていて、銀河鉄道の夜みたいな突拍子の無さだな!と思ったところで、風の又三郎宮沢賢治だったことを思い出した。ちゃんと青空文庫で原作読んでから観に行ったのにね…シェイクスピアじゃないよ、宮沢賢治じゃん…と思ったのに冒頭ヴェニスの商人シェイクスピアじゃん!

幻想なのに現実で虚構で、どれが本当でなにが想像なのかわからなくなって、頭の中が大混乱している間に、突然その瞬間はやってきた。口元を真っ赤に染めて笑う窪田正孝

えっ?えっ?何?いまのわたし好きなやつ。えっ?と思ってあわてて日の出の5倍で抜いたら、明るさ16で浴びる窪田正孝の狂気の表情にぶん殴られた。えっ?えっ?織部?すきとおって今にも割れてしまいそうな、あの繊細な織部がそんな、そんな顔、えっ?

って言ってる間に二幕終わった。

何これ?????好き?????(混乱)

衝撃が大きすぎてあんまり覚えてない。っていうか、どんどん記憶がうすぼんやりと消えていくから、今日お芝居を観たことすら夢だったのかもしれない。あの窪田正孝も夢…ではない!!!なにあれ!映像でも十分お芝居上手なの知ってたけど、板の上の窪田正孝、なにあれ!!!!!

 

 

やっぱり分からない三幕

ぜんぜん分からないままだけど、二幕ラストでぶん殴られた風の又三郎、あれが二幕なら、なんか、ちゃんと楽しめるかもしれない!

と思ったけどやっぱり難解だった。「分からなくて面白くない」んじゃなくて、処理できない量の何かを豪速球で次々投げられるからとにかく必死でレシーブ受け続けてるけど半分くらい取りこぼしてる。って感じ。伝われ。

 

夢と現実との境目がますます分からなくなって、生と死の境目がますます分からなくなって、虚構と人生の境目がますます分からなくなって。

あの夢は現実だったんじゃないか。

あの幻はほんとうだったんじゃないか。

あの現実は嘘だったんじゃないか。

って、目隠しのまま闇雲にナイフを振り回す織部はわたしたちだった。

 

それ以上の何も分からなくて、死んだのか、生きてるのか、夢なのか、幻なのか、何もわからないまま泣いていた。血を流しながら苦しんで笑う織部と向き合いながら、ただただ泣いていた。片翼の飛行機に乗って、きっとこれから何十マイルも越えて何処かに還る笑顔の2人を見送りながら、泣いていた。

 

唐十郎、サッパリ分からなかったけど、絶対にまた観ようと思った。映像じゃなくて、現地で。なんか、そんな世界だった。

 

どうしてもお礼が言いたくなって、よくわかんないけど泣きましたってお手紙(ひどい)を走り書きしてスタッフさんに託して帰ってきました。大千穐楽だからと念のために鞄に入れたミニ便箋があんなに役に立つとは思いませんでした。

 

 

終わってみて

帰り道にポツリポツリとこのエントリを書き始めて、帰ってきて、お風呂にも入らず、ひたすらスマホに向き合ってました。パソコンを立ち上げる暇もない。中断してしまったら、きっと何も書けなくなってしまったから。

それくらい刹那的な経験でした。

他人にお勧めする言葉はきっといつまで経っても持てないんだけど、きっとわたしの観劇人生で大きな存在になるだろうお芝居。

 

千穐楽、おつかれさまでした。

そして、ありがとうございました。

 

2019.3.13