足元にご注意ください

気付けばハマる、そこは沼。劇団☆新感線を中心にお芝居について好き勝手書き連ねる場所。

ここにエンタメ極まれり【スーパー歌舞伎 ヤマトタケル】

ワンピースぶりのスーパー歌舞伎!これアレか、もしかしてステアラでやる予定だったやつ???って席に着いてから思い出しました。

今年はちゃんと記録しよ、と思って忘れないように幕間に書き殴ったメモを元にしているので、いつも以上に脈絡がない。

ちなみに、わたしのヤマトタケルの知識は荻原規子の白鳥異伝のみです。小碓、大碓、武彦、橘、八岐大蛇を退治した剣…全部知ってるけどぜんぶ絶妙に違う。ちゃんと古事記読もうと思いました。


スーパー歌舞伎ってこうだった

オープニング、なぜか宇宙に浮かぶ地球が投影されて「スーパースペクタクル…?!」と混乱しました。

幕が開いたらいきなり廻り舞台で横幅いっぱいに並んだヤマトの男たちによる「壮観なビジュアル」でぶんなぐってきて、さすがスーパー歌舞伎だな!!!って感じ。

わたしはワンピース歌舞伎が初スーパー歌舞伎にして2回目の歌舞伎だったんですけど、当時の思い出がすごい蘇ってきた。そう、歌舞伎isジャパニーズ・エンタテインメントなんだよな!!!!!

(6年前の拙いレポ……もう6年経つの??!?!)

ちゃんと伝統的な歌舞伎の技法を、これでもか!!!!!!ってくらい派手な演出と絢爛豪華なビジュアルで次から次へとお出しされるのすごい好き。御覧じろ日本の伝統芸能!ドヤ!!!って感じ。しかもこれを40年くらい前からやってるの、ほんと歌舞伎って意味わからんよな…(ほめてます)


豪華な衣装!!!鳴り響くツケ!!!豪快な立ち回り!!!大量の紙吹雪!!!心配になるほど壊されるセット!!!不安になるほど飛び交う樽!!!大胆な宙乗り!!!ほぼぜんぶ本家歌舞伎にもある要素です!!!(嘘でしょ?!!?!ってなる)

ほんとここにエンタメ極まれりって感じでした。最高。


クマソ、飛び交う樽

そう、樽が飛んだ。

そもそもクマソとの戦い、スーパー物量シーンだったんですよ。ジャンヌ・ダルクかと思った。舞台上に、群衆はね、作れるんだよ!!!!

ほんとクマソ陣営、圧倒的物量だった。二階建てのセットに所狭しと並んで宴会を楽しむクマソの男たち、西の果ての手強い軍勢をビジュアルでお出しされてこっちが弱気になっちゃった。めちゃくちゃ強そう。


しかもそのあと花道と客席通路から相模やら琉球やらの陣営がわらわら出てきて、まだ増えるのォ?!ってギョッとした。

カテコで判明したけど、出演者4列に及ぶほどいました。4列って!!!!!筋書き買ったら写真のある主要登場人物だけで13人いた。(主演ダブルキャストなので14人分あった)

物量!!!!!!!


そんな物量バトルシーン、まじでダイナミックというか、あなたたちもしかして、派手にすることだけ考えましたよね???っていう…(すき)

小碓は髑髏城の百人斬りかな?ってくらい斬ってるし、アクションチームはガンガン飛び回るし、途中で樽の山を崩したと思ったら舞台上でポイポイ樽を投げ付け合うクマソと小碓……

ワンピースの滝のような本水にもあっけに取られたけど、樽を投げ合う小碓とクマソタケル弟にもあっけに取られたよ。歌舞伎なんでもアリだな。(すき)


そう、團子くんね、やっぱり本人も若いし小碓も若い役だから余韻とかは正直ちょっと若々しくて物足りないところもあるんだけど、どう考えても殺陣がうまい。圧倒的な強さ。

クマソタケル兄の腰から刀を抜いた瞬間、空気が変わるんですよ。殺陣への解像度が低くてどこが上手いのかちゃんと言えないけど、剣舞でも殺陣の手を踏んでるんでもなくて、ちゃんと目の前にいる相手を斬っている感じ。その後ろ手に相手へ向けた切先がちゃんとガチで牽制になっている感じ。人を斬れるタイプの殺陣だった……

なんだろうね、運動神経が良いのかな。体幹が強いのかな。わからん!けど学んだ。團子くんは殺陣が上手い!


あと二階建てセットがめっちゃよかったなあ!明かりが消えてだんまりが始まって、二階の窓が開いて明かりが差して、戦いが始まったら後ろの壁がバンバン壊されていく。思い切り壊すねえ!って笑っちゃったし、最後は屋根まで落として心の中で手を叩いて喜んじゃった。屋台崩し、本家の歌舞伎でも観てみたいです。


蝦夷、飛び交う人間

フラッグの演出ってスーパー歌舞伎お馴染みなのかなあ???炎が燃え広がる様をフラッグで表すの、雰囲気ピッタリですごーい!と思ってたら神の炎を起こすことになって、割と人数の多いフラッグ炎隊が2倍になって「やっぱり物量……」と思いました。

炎タイムが思ったより長くて、ちょっと単調になってきたな〜と思ったタイミングでアクションチームによる大バク宙大会。ぐるんぐるん回るフラッグと人間。最終的にトランポリンまで出してきてポンポン飛び出してくる人間。すごい。


そういえば蝦夷編で初登場した武彦、いやこれみんな好きになるやつだな……と思ったら本当に最後までめちゃくちゃ良いやつで、3幕で小碓に肩を貸すシーンとかほんとグッときた。

素直で感情が表に出やすい小碓と、ちょっと斜に構えて冷静で大人な武彦、組み合わせとしてパーフェクトだよね。白鳥異伝も読み直そう。


武彦の福之助くんととヘタルベの歌之助くんがリアル兄弟だってことは、帰ってきて筋書き読んで初めて知りました。

兄弟ふたりを付き従える團子くんが1番年下。そう考えるとホント、めちゃくちゃ若い座組みだなあ…!


正直、小碓がまだ子供っぽい役柄の1〜2幕は他のお役も含めて全体的にちょっと余裕が少ないというか、ピリッと締まるシーンが少ない印象を受けたんですよね。四代目が抜けたってこういうことだなって実感した……

この話をすると別の論点が入ってきそうだからアレだけど、シンプルに公演の構造として、歌舞伎座で真ん中張れるベテランの役者が手綱握ってるかどうかで、やっぱりメリハリとか重みとかが変わってくるのは当たり前だよなって話です。中車さんの帝、リアル親子なのはすごいエモいけど、ぶっちゃけるともうちょっと重鎮感が欲しかった。


ちなみに、若い座組みなのは分かっていて團子くん回をわざわざ選んだので観劇体験としては満足しています!!!

それに、心配しなくても3幕では團子くんの「凄味」にぶん殴られることになるので……


病床のヤマトタケル、狂気

大好物の狂気をお出しされて笑うしかなかった3幕。スーパー歌舞伎、全体的に予想を超えすぎて「わはは!まじかやべえ!」って笑いがちです。ほめてる。


愛する大和の国の手前で病に倒れた小碓、自分の限界を信じたくなくて、故郷を夢見て、焦点の定まらない生気を失った目でフラフラになりながら進むちょっとヤベエ姿がぐさぐさ刺さった。

絶望と期待と諦めがないまぜになった表情。「凄味」ってまさにアレのことだよ。素直で無邪気だった小碓が、女がみんな愛らしく思うと言われた尊が、あんなに自信満々だったヤマトタケルが、ボロボロになって、ただひたすら叶わぬ未来に手を伸ばしてる。


歌舞伎ってわりと「死際」をめちゃくちゃ劇的に描くから、ヤマトタケルの死のタイミングで宙乗りかなーと思ってたんですけどね。

まさかあんなにスッと密やかに命を終えるとは思いませんでした。美しかった。

そうよね、せっかくの宙乗りはキラキラと希望の光を目に湛えた小碓がいいよね!!!!


宙乗りはぜったい鳥になって飛んでいくんでしょう、と思ってはいたけど、あんなに鳥だとは思いませんでした。衣装もそれはそうなんだけど、飛ぶ前の舞台上での舞踊がさあ、顔の動きとか完全に鳥でびっくりだよ。

宙乗り宙乗りで長袴の裾も吊られてて、手は鳥だし足も吊られて何の自由も効かないバランスも取れない体勢こわ……と思ってしまったけど、まあシルエットの美しいこと!!!

宙乗りって江戸時代からあるらしいですね……歌舞伎すご……


ちなみに1幕でも、小碓より圧倒的に大碓の方が好みでした。キラキラ純情主人公属性より、ちょっと影を背負ったニヒルな役の方がハマりそうな気がする。キャラデザ的には武彦みたいなイメージ。

なんか團子くんて頭が良さそうなんですよね、とても。だから草薙剣を置いていくとか、そういう判断をしなさそう。頭脳派の方が似合うよ、きっと。いや、初見なのでなんも知らんけど!


それにしても小碓は、ヤマトに兄姫という妃がありながら、余裕で弟姫を囲い込んで、躊躇いなくみやず姫も貰い受けるの、さすがあの大碓の弟って感じ。

そもそも冒頭で兄姫を妻としながら弟姫に手を出そうとするのを、弟姫が咎めてた気がするんだけどな。大碓も「悪いこと」だと分かってやってる感じがあったと思ったんですけどね……

小碓、無邪気に喜んでるからな!!!もっとタチが悪いぞ!!!と思ってしまうけど、どういう理屈なんだろうな?


兄姫、どタイプ

突然ぶっちぎりで頭の悪い感想ですいません。米吉くんの兄姫、どタイプでした。

新春浅草歌舞伎でも第一部2幕の与話情浮名横櫛・お富の役が刺さりすぎてヤバかったんですけど、ちょっと歳を重ねた女を演じる米吉くんがめちゃくちゃ好みだということがわかった。妹より姉、姫より未亡人。


2幕ラストの船の上の場面で、絶望を呑み込んで昏い目をした弟姫もめっちゃタイプでした。あの翳りのある表情、さすがあの姉の妹だなって思った。いやまあ同一人物ですけども……

とにかく酸いも甘いも分かっている側の米吉くんがすき。


米吉くんをちゃんと認識したのはFF歌舞伎なので、ユウナのかわい〜いイメージが強かったし、顔も可愛い系だし、未亡人は新悟さんの印象が強かったけど、ちょっと気怠げで大人の余裕が出た米吉くんの女方、とても良いんだ……もちろん姫はあざとかわいいんだ……

関係ないけど、苔玉くんは「かわいい」で、米吉くんは「あざとい」って感じです。どっちも好き。


そう、今回は米吉くんも團子くんも1幕で一人二役の早替わりがあって、立ち回りが大混乱で面白かったです。

一人二役で同じ人が演じてるその二人が立ち回りを繰り広げて代わる代わる顔を見せるタイプの歌舞伎の早替わり、ほんと面白いよね。


ワンピースではルフィとハンコックが二役で、2人が取っ組み合いしながら入れ替わってたけど、今回は大碓/小碓の兄弟と、兄姫/弟姫の姉妹が両方入れ替わり立ち替わりするから……たぶんあれ30分間くらい 、登場人物4人もいるのにずっと2人芝居だったよね???

そもそもあんな豪華な衣装を早替えで仕上げるのもすごいし、物理的に衣装着変えてバタバタしてるだろうに、ちゃ〜〜んと全然違う人物として登場できるのがほんと……早替わりってすごいよな……


余談ですが「エヒメ」と「オトヒメ」が「兄姫」と「弟姫」だってのは、帰って筋書き開いてもしばらくわからんかった、なるほどね……ニホンゴムズカシイ……


衣装、景気がいい

とにかく派手で派手で、ビジュアルisパワーなお衣装でした!!!景気がいい!!!

クマソのタケル兄弟、背中にそれぞれタコとカニを背負ってて、胸には龍と魚を抱えててとっても可愛かった。クマソって海沿いの国だっけ?と思って調べたら熊本あたりらしい。フルーツも出てたし南国だね。


帝と大后は胸元にジャラジャラと勾玉を身につけていて、まさに白鳥異伝……!!!

皇族は冠の意匠がまた素晴らしくて、翔三くん…綺麗だよ…と思いながらオペラしました。市川翔三くん、ワンピース歌舞伎のカマバッカ王国で見つけた美人です。クマソの女も皇子も美人さんでした。


小碓の衣装は物語が進むごとに少しずつ豪華になっていって、何者でもない自信のない小碓から、強く人心を掴むヤマトタケルになっていく様が見えて素敵だった〜!

特に2幕の、たぶんカテコでも着てくる金の衣装!!3幕はちょっと天狗になってるからか赤も入ってゴテゴテしてくるから、やっぱあの2幕がいちばん神の力がそばにあって最盛期って感じなんだろうな。

あれはねえ、ちょっと短めの袂に肩のあたりから放射線状に金の模様が入ってるんですけど、海に消える弟姫に追い縋って手を伸ばす場面でその模様がいちばん綺麗に見えて、すごい残酷な衣装!!!!!と思いました。ほめてます。

いちばん神に愛されている衣装が、弟姫を失う時に1番輝くようにできている……


同じ船の場面で弟姫の衣装も、大きな袖の柄がとっても綺麗で、船室から顔を出したときとか、小碓を振り切って我が身を抱くときにいちばん綺麗に柄が見えて、残酷……と思いました。とてもいいよね。


あと素敵だなって印象に残ってるのは、山神さまと姥神さまのお衣装です。同色の柄物の布を何重にも襲ねて縫い合わせたみたい着物、めっっっっっちゃ素敵でオシャレだった!!!!!!!!あの加工のスカートかジャケットが欲しい。かわいい。すてき。


あと個人的に気になっていたのが武彦の衣装。小碓と合わせて結構いろんなお衣装に着替えるけど、ずっと蝶が飛んでる。ぜんぶ蝶の柄。なんでなんだろうなあ。気になるなあ。


書き殴りメモ、終了

物語については、兄殺しの小碓が向き合う敵がいつも「兄弟」なこととか、父帝との関係とか、史実と白鳥異伝と合わせていろいろ捏ねくり回せそうなネタはあるものの、今回は力尽きたので割愛です。


予習せずに行ったから、團子くんと中車さんと猿弥さんと翔三くん以外の出演陣の顔とお名前が一致せずだったけど楽しかったです。ごめんね。筋書き読んで勉強します。

たしか宝塚のパンフレットも同じスタイル(もっと細かい場ごと)だった気がするけど、幕ごとの配役書いてあるのホント天才。

おかげで琉球のおどりがものすごく好きだった踊り子さんのお名前がわかりました。市川笑野さんでした。

あと笑三郎さんの倭姫がものすごく魅力にあふれていたので次もチェックしようと思いました。


後ろの子役がめちゃくちゃかわいくてオペラしたんだけど、名前判別不可でした。特に帝の裾持ってた子がめっちゃ好みだったな。

歌舞伎の世界って総じて角子似合いすぎで、大和の血だな……と思いました。白塗りの角子、そんなに似合うかよ……


いつも以上にぶつぎりだけどおわりです。スーパー歌舞伎、やっぱり半日かけて味わうドデカ大衆エンタテイメントだった。

何も要らんからとりあえずビジュアルとド派手立ち回りにぶん殴られに来い!!!!!って感じ。なのに話の筋がちゃんとしてて(語彙力がない)、ちゃあんとエンタメと教養を両立してるのが最高だなと改めて思いました。あー楽しかった!!!

同じ時代を生きてて良かった【舞台 中村仲蔵】

観たというより「目撃した」という気持ちがどうしても先行する中村仲蔵、東京千穐楽。芝居の魅力を再確認したお芝居でした。

芝居の魅力を再確認させる芝居を、舞台作品というエンタメとして上演するって、演じる側としてはハードル高すぎだと思うんですけど、まじでほんとうに出演陣が誠心誠意この芝居に向き合って全力で板の上で芝居しているのが伝わってきて、この芝居が見られて良かったなあって心から思った。もちろんすごく面白かったけど、その面白さよりも「いい作品だった」って感想が上回るほど良い芝居体験だったので書き残しておきます!!


他に誰が仲蔵を演れただろう

舞台で活躍する役者さんはたくさんいらっしゃって、その誰もが唯一無二の道を歩んでおられるのは分かっています。

でも、中村仲蔵は、この舞台は、きっと藤原竜也以外の誰にも演れなかった。

そう思わせるほどの怪演。「怪演」って表現は人生で初めて使ったけど、ほんとに存在するんだなって思いました。


舞台に立つこと、芝居に生きること、役を突き詰めること。血筋も経歴も持たず、我が身ひとつで役者という生業に命をかけて向き合って、追い求めて、突き抜けて、前例を飛び越えて、血反吐を吐きながら、ただひたすらに「もっと良い芝居」を求め続けた孤独な伝説。

これは、この舞台だけは、藤原竜也以外の誰も真ん中には立てなかった。彼が演じるべくして上演された芝居でした。藤原竜也と同じ時代を生きててよかった。


わたしが舞台を観るきっかけになったのが藤原竜也で、舞台の沼に足を踏み入れて最初5年くらいは彼の舞台作品を片っ端から観てた。とはいえ全て観られたわけではないし、映像作品なんかもっと見逃してるし、ただ、生で観る舞台の面白さを教えてくれたのは間違いなく彼だった。

SNSもやってなければトーク番組にもそれほど出ない。ただあの人の芝居に、存在感に、役として生きる姿に惹かれて、それを観るために劇場へ足を運んでいた大学生の私。あの頃の私に、はやく藤原竜也の仲蔵を観せてあげたいよ。こんなすごい芝居を演る人だよ。中村仲蔵、間違いなく彼の演劇人生で代表作のひとつになる演目だと思いました。(なお映像は圧倒的にカメレオンがすきです)


舞台装置と外郎売

大きな三階建てのセット二つが縦横無尽に動いて空間を作っていくの、めっちゃ良かった。ロンドン・ウエストエンドのLes Misérablesみたいだなと思いました。

とにかくデッカイ舞台装置の使い方がうまい。(褒める語彙力が足りない)

両サイドに階段が出てくる「地下」の奈落とか、二つのセットがパカっと割れて「道」を作った雨の街道とか。舞台になったり楽屋になったり、2階でメインの芝居が進んでいる間も3階にいる役者たちがしっかり時間の経過や物語の膨らみを作っていたり……


そのデッカイ舞台装置が作る緻密な空間がいちばん良かったのが外郎売です。っていうか舞台装置云々を置いておいても外郎売はやばすぎた。

本家歌舞伎の外郎売は観たことないので知識としてしか知らなくて、冒頭は「わあ、外郎売だ!」くらいにしか思ってなかったんですけど。ねえ、あんなに個人の技量が試される演目だなんて知らなかった!!!!

最初は淡々と喋り出したのに、どんどん藤原竜也が作り出す渦に巻き込まれて、どこまで行くの?って引きずり込まれていくあの衝撃ったらないよ。

それを演出しているのがあのデッカイ舞台セットなんですよ!!!


最初はセットの全部の空間にロールカーテンみたいな幕が降りててただの壁なんですよね。それが外郎売が盛り上がってくる中盤あたり、観客も「どこまで口が回るの???」って思い始める頃。デッカイ舞台セットの幕がひとつだけ上がる。食い入るように仲蔵を見つめる役者がいる。ふたつめ、みっつめの幕が上がる。みぃんな引き込まれるように外郎売を見てる。どんどん幕が上がって、どの役者仲間たちの目も仲蔵に釘付けになっている。

わたしたち観客が「引き込まれていく」感覚を持つタイミングで、舞台の奥の役者たちも同じように引き込まれていって、板の上の真ん中にひとりぽつんと座る仲蔵に前も後ろもみんな引きずり込まれていくあの瞬間、いかに仲蔵が「伝説」だったかを肌で感じた気がしました。吸引力がすごい。

っていうかそんなことになってる藤原竜也すごくない?どうなってんの???


花道が最高

話が前後するけど、前情報をなんにも入れずに千穐楽へ飛び込んだので、客席に入ってびっくりしたんですよ。ブリリアに花道なんて作れるんだ??????!?!新感線もやろうよ、花道ブリリア。


歌舞伎は出捌けが大きな見せ場になっていることがほとんどだし、花道って「もうひとつの舞台」って感じだけど、仲蔵の花道はもっと「象徴」って感じがしました。

仲蔵が何度も口にする「目を瞑ると浮かんでくる、まっすぐに伸びる一本の道」が、木戸銭を払って観に来た客の間を通っている。芝居の盛り上がりを生み出す華やかな舞台装置じゃなくて、先の見えない不安と未知への恐れが入り混じった、こことは違う何処かへ続く道。未来と現在との端境。

こうやって考えたら、与えられている役割としてはもしかしたら本家の歌舞伎と同じなのかもしれないけど、よりその象徴性が際立っていたなあという気がします。


ていうか、前方花外席から観る仲蔵、あまりにも「すべてが見える」ので最高だったんですよお…

花外って「花道芝居がぜんぶ背中になっちゃうからイマイチ」みたいな通説があるけど、いや確かにそうなんだけど、成志さんも高嶋さんも莉生くんも背中向けてたけど、それよりもライトを背負って花道を進む役者たちの表情が見えるの本当に最高だった。


1番良かったのはねえ、ちょっとどのシーンか忘れましたけど、ひとりでゆっくり花道を進む藤原竜也が、舞台からのライトの逆光に入って、まさに「光」から「影」に足を踏み入れる瞬間を目撃したことです。足元の照明とか客席側からのピンスポとか、花道の役者の顔を照らす照明なんて山ほど用意されてるのに、たぶんどれも敢えて使われてなくて、七三を過ぎるあたりで急に前半身が影に入って、光を背負ったまま影を抱く仲蔵がビジュアルとして完成されててハッとした。ちょっとどのシーンか忘れましたけど…

忘れた理由は、ほかの3つの花道芝居がシーンとしてインパクトが強すぎたからです。っていうか、書きたい感想の7割が花道芝居な気がする。


my fav 花道芝居1:さきの引っ込み

この作品唯一と言っていい引っ込み芝居!!!(感想には個人差があります)

※感想には個人差があります!!!


引っ込み芝居が唯一だったかどうかはね、感想には個人差がありますのでね。わたしはこのシーンだけが明確に「引っ込み」だと思いましたという話。

花道を使った印象的な演出は多々あったけど、引っ込みという形で「退場」をあんなに劇的に印象付けるのほんとずるいなー!と思いました!尾上紫さんのお役、どのシーンもそんなに長くないのにめちゃくちゃ印象的でずるい。(母たちめっちゃ良かった)


おっとりのんびり天然っぽさを発揮していた、良いとこの娘さん然としたさきが、家が没落して落ち延びるしかなくて、険しい顔で哀しみを堪えて、新左の未来を憂える強い母の姿を見せるあの引っ込み。

新左の運命が反転した瞬間を表すのに、あんなに効果的な引っ込みある?!!

っていうか、そこでガチで三味線弾く市原隼人もずるすぎるんやが??!!?!

前方花外から間近にみえるさきの表情と新左の三味線、贅沢すぎたmy fav花道芝居です…


my fav 花道芝居2:これより先は孤独

いやー、もう良すぎるでしょ高嶋政宏知ってた…

「目を瞑ると浮かんでくる、まっすぐに伸びる一本の道」の向こうから、ゆっくり微笑んで仲蔵を迎えにくる、歌舞伎界の特別な名跡團十郎」の姿。

その意味を悟って、一瞬だけ子供みたいな頼りなさげな表情に戻る仲蔵。

曖昧で明言されないけど、この確固たる師弟関係のふたりが、ほんとうにもう、並び立つ才能ってこういうことなんだなって。


仲蔵がもう戻れない花道に足を踏み入れて、ゆっくり團十郎がその道をあけわたして、花外席からはその團十郎の背中だけが見えてるんですけど、何の悲しみも憂いもなく、ただ堂々と道を譲ったその背中がほんとうに素敵で…

これほんとに蛇蝎と同じ人?って自信無くなって検索しました。間違いなくお兄ちゃんで合ってた。役者ってすごい。


その團十郎を追い越す仲蔵が、團十郎一瞥もくれず、思いも残さず、ただ前だけを見て進んでいくのがほんと、そういうとこだよな〜〜〜!

でも、ほぼ真横から観てると、追い越す瞬間グッと踏み出す一歩がすごく重いんですよ。別に足を踏み鳴らしてるわけでも、目立った歩き方をしてるわけでもないのに、すごく重い一歩。

あの一歩が、歌舞伎界の歴史的な一歩なんですよね。ほんと、演劇界のレジェンドを演劇で表現するの、高すぎるハードルを飛び越えていて眩暈がする。


my fav 花道芝居3:次世代への布石

鶴屋南北!!!!!!!!!!!

いや、待って、鶴屋南北!!??!!?!?!

笑三さんの後ろに立ってる見たことない若い衆的な斉藤莉生が、なんか意味わからん存在感を醸し出してるけど、それ誰???って思ってたら、ニヤッと笑って名乗った瞬間鳥肌が立った。無知な私でも名前聞いたことある狂言作家やないか……間違いなくどえらい大物だよ……


物語の構造として、あそこで次世代の大物狂言作者出してくるのはずるすぎる。本来は時代的にまだ鶴屋南北を襲名してないみたいなんですよ。でもあそこで名乗ることに意味がある。同じ時代を生きた役者で仲蔵の影響を受けない者が居ないように、五代目團十郎も、鶴屋南北も、すぐ後の時代を生きて仲蔵の影響を受けない者がいるものか!

東西の歌舞伎界に大きな大きな爪痕を残したことが、あの鶴屋南北の登場で明示されるの、ほんっっっっとずるくないですか??!!?!?!?!


ちなみに会場出てフォロワーさんと合流して開口一番「あの鶴屋南北の存在感なに??!!?!?!」って混乱が口から飛び出た。なんで、なんで突然そんな存在感出せんの????

それまで名も無い女方とか稲荷町の若手役者とか、物語の時代と世界を組み上げる一員としてスッと景色に馴染んでたくせに、あの花道でだけ突然「異質な存在」としてその場に立ってるの、本気で意味わからんのですが斉藤莉生って人生何周目?(ミステリアス・ストレンジャーのレポでも言いました)



良い芝居だったなあ…

ほんと、何回思い返してもこの感想しか出てこないし、終演後に呟いたこの投稿に自分で何度でもいいねしたい。

ねえ、思い出しました。三味線以外の市原隼人の話をまだしていません。畳む前に見出し追加する。


ずるすぎる存在

ねえ〜!市原隼人のずるすぎる肉体美!脱いだ瞬間笑っちゃったよ!!!!!圧倒的強者・陽の者の肉体だった。陰陽道なんてひとつも登場してないけど、陰陽ってほんとに存在するんだな……って思わされた圧倒的な「陽」の気。仲蔵の前に現れる「異なる者」として最高の存在だったよね。仲蔵はぜっっっったいに隠の者なので…


でも前述のとおり前情報をひとつも入れずに飛び込んだのでもちろん配役も見ておらず、結構序盤で八百蔵がナレ死してどうしようかと思いました。

歌舞伎役者…ほんと推しは推せるときに推さないと…人間いつ死ぬか分かったもんじゃないですからね…


二役目で出てきてほっとしたけど、今度は三味線弾きで腕も立つ武家の末っ子って、設定がトゥーマッチで白目剥きそうだった。中村仲蔵市原隼人、無敵じゃん。

雨の蕎麦屋で半身振り返った新左のシルエットが天才すぎて拝みました。仲蔵と一緒にわたしも「これだ……!!!」って心の中で叫んだよ。まぎれもなくあれが「「「正解」」」でした。


自信と野心しかない八百蔵と、誠実で欲の無い新左って真逆のキャラクタを両方自分らしく演じていて、この人ビジュアルisパワー!って感じなのに演技もできるし三味線も弾けるのほんとうにずるすぎでした。天才。


屋台骨のしゃべくり

ギリギリで思い出したのでもうひとつ見出し追加します。わたし池田成志のあの喋り方が好きすぎるって何回も言ってるんだけど、ずっと喋っててまじで最高だった。


ひとりだけ世界線を外れた存在で、でもデウス・エクス・マキナではなくて、ちょっと伝わりづらい歌舞伎の「別格」を自然に理解させる装置で、メタ的に物語の解説をしてくれる有難い存在。

ともすれば「ただの便利なシステム」になってしまいそうなのに、しかも他があんなに地に足ついた世界観のお話なのに、成志さんのあの独特な存在感がすごくちょうど良い感じに違和感を無くしていて、なんで???ってめちゃくちゃ思いながら見てた。

実在した過去の役者の話を誠実に堅実に描いてるのに、そこに違和感なく神様が登場してるの、普通は意味がわからなくないですか???


藤原竜也だったから成立した芝居だったけど、池田成志でこそ成立した芝居でもあったと思います。実はほぼ新感線でしか観たことないんだけど、あのひとはほんと、間合いの取り方が天才的すぎるし、板の上と客席とを繋ぐのが上手すぎるんだよなあ。

今度成志さんが出てる新感線じゃないストプレ(新感線にストプレなんてあったか?新感線は新感線というジャンルだね…)を観に行こうとあらためて思いました。


やっぱり良い芝居だったよお…

前情報入れてなさすぎていまどこで公演やってんの?ってサイト観にいきましたけど、明日から名古屋!そのあと宮城!福岡!大阪!と続くみたいです。全国ツアーじゃん。

大阪は新しいSkyシアターMBSですね。立地だけでめちゃくちゃ最高なのに、あのBRAVA!の後継劇場って聞いて、柿落とし前からハコのファンになりそう。シアターBRAVA!、快適だし演目ラインナップも良くてめちゃくちゃ好きだったんだあ…


柿落としとしてこの中村仲蔵を上演するって、劇場のあゆみとして贅沢すぎて羨ましい。(しかもちゃんと藤原竜也の舞台でSkyが命名権取っててほんと徹底してる…すご…)

オープニングシリーズの間に、ちゃんとSkyシアターに観にいきたいなと思います!!!


うっかり劇場の話になっちゃった。

仲蔵の感想に戻りますが、このカンパニーでこの芝居が上演される時代を生きていることに感謝したい。

プライベートに余裕があればもう一度(それこそ大阪へ)観に行きたかったです。外郎売の引力をもう一度感じたい…

映像としても残るかもしれないけど、現場で感じたあの引力は生の舞台ならではですよね。やっぱり現地で観る舞台をあいしてる、と再確認したお芝居でした!ほんとうに良い作品だった!!!

わたしたちも15世紀のフランスを共に生きた【舞台 ジャンヌ・ダルク】

観なきゃ観なきゃと思いながら、一度も観たことがなかった中島かずき脚本の外部作品。ついに!ジャンヌ・ダルクを!ようやく!観た!

実は白井さんの演出がちょっと肌に合わないんですけど、今回それを差し引いても超よかった。キャストひとりひとりのエネルギーというか、「自分が信じるものを自分こそが守り抜くのだ」という意志がほんとうに強くて、激動の15世紀フランスをわたしも一緒に生き抜いてきた気分です。

もう再再演だし、大筋は(大筋は)史実だし、ネタバレとか気にしないことにした。

  • わたしは彼女のことを何も知らない
  • 物量に押された1幕
  • 中島脚本に押された2幕
  • まさにLa Pucelleだった清原果耶
  • 生き残り背負わされた者、小関裕太
  • わたしたちも 15世紀のフランスを生きた
  • 人間臭いイングランド
  • ずるすぎる傭兵たち
  • あまりにも素敵すぎる「母」りょう
  • 括るには勿体なさすぎるけど括る
  • 白井演出の何が苦手なのか
  • 神は本当にいたのか?
  • 信じているものをただ信じる勇気
  • すごい、何にもまとまらなかった


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「命のやりとり」を見せられている【劇団新感線 天號星】

太一さんお誕生日おめでとうございます!

初日振り2度目の天號星、東京公演 9/24マチネを経たエントリです。2回観たけど結局おんなじとこで「ハァ〜〜最高〜〜〜!!!」ってなっちゃってその先の感想に進めないので、とりあえずちょっとでもエクスポートして咀嚼して一歩ずつ進んでいこうね、という試みです。


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全ては「ゲーム」だったスリルミー2023松岡山崎ペア

2021で悔しいくらいに刺さった松岡山崎ペア、2023でも悔しいくらいに大好きだった……もうすでにもう一回観たい……

  • 俺の大好きな松岡私と山崎彼
  • 俺の知らない大好きな山崎彼
  • それがゲームだったんです
  • 俺の知らない松岡私
  • 最高で完璧な夜


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観たいもの全部乗せで重量オーバー【天號星東京初日】

祝・初日!!!!!!!!

キャスティング発表の段階でお祭り騒ぎだった天號星、フォロワーさんのおかげで初日の混乱を浴びることができました……

いろいろあってめちゃくちゃ日にちが経ってしまったし、ストーリーとかキャラとかの話はなんもないし、考察もレポもくそもない、とりあえず初日を観たという感想ぶつ切り殴り書き!

  • 初日!!!!!!!
  • 劇団朱雀 新感線公演「天號星」
  • あまりにもずるいタイトルコール
  • 続・劇団朱雀 新感線公演「天號星」
  • 殺陣がさあ、良い
  • キャスト別言いたい放題
  • 時間がねえんだわ


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ハンマーで頭を割られたスリルミー2023尾上廣瀬ペア

ハ゛ン゛マ゛ァ゛であ゛た゛ま゛を゛わ゛る゛ぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!

またやべえペアが生み出されてしまったスリルミー2023……9月7日公演初日、尾上廣瀬ペアの感想殴り書きです。なんでこんな…知らない話になるんですか?

尾上廣瀬ペアの個人的印象は「放っといたら壊れてバラバラに飛び散りそうだった廣瀬彼をテープでぐるぐる巻きに修理して鳥籠の中にそっと仕舞い込んだ松也私の一方通行純愛ホラー」です。

なお、「尾上廣瀬ペア」だけど「廣瀬彼と松也私」で行きます。「尾上私」はちょっとなんとなく違和感があってテンポ良く書けなかったので。ちなみに「尾廣ペア」も違和感あるから略すなら「松廣ペア」かなあ……(どうでもいい)

  • すでに壊れている廣瀬彼
  • 繋ぎ合わせてテープで巻かれた廣瀬彼
  • ちゃんと純愛だった松也私
  • 無邪気で人懐っこい松也私
  • そのほか雑多な覚え書き


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